学級戦争クリスマス2017

2017.12.27

2017年のクリスマス番外編として、以下の1-Eメンバーのクリスマスこばなしを書きました~。
そのまま目次になっています。と言っても、基本的に名簿順でラストに中村めぐを持ってきただけですが…

伊狩櫂十
犬飼二葉
鶯谷芽白
宇佐美智彦
鬼ヶ島桃子
菊池真紀菜
木場アズキ
久我山鈴音
車屋昴
黒木深星
古後知シズル
佐倉香帆
笹島瑞希
篠沢則貴
高里亜梨子
手島木実
寺島次元
豊臣秀
鳥海つかさ
長塚みのり
二ノ宮光輝
猫井のあら
馬場和海
細川大
御神瑠璃子
三川凛之助
宮下透
室館のぞみ
森谷貴志
六島灯
中村めぐ

中身は↓の「続きを読む」から!
残念ながらジャンプ機能はないので、出席番号遅い人の話だけ読みたい人、ごめんなさい…頑張って下がって…
それでは皆様、良いクリスマスを!
 

 

【伊狩櫂十】
はあ、と吐き出した息は、白く曇って消えていくような柔らかさではない。
そのまま凍って結晶にでもなりそうなほどに、空気が冷えている。思いきり吸い込むと、肺の内側まで凍るような、そうして薄く張った氷がチクチクと肺を刺すような感覚に、咽る。
「トウジ!シンコキュウ したら 危ないヨー!」
「…うん。シャレにならないね」
いっしょにこのツアーに参加した、とあるつての友人が俺の様子を見て笑う。日本ではまず使ったことがないような防寒具に身を包んで、また空を見上げる。
現在地、カナダ。何のためにカナダまで来ているのかと言えば、この空に広がるイエローともグリーンとも言い難い、グラデーションがかった帯…オーロラを、見るため。
周りにはほかのツアー客もいるが、思い思いに空を見上げている。それ以外に何もないここは、すごく静かで、すごく広くて、…すごく落ち着いた。
鼻が寒いなあ、と思ってこれまた分厚い手袋を纏った両手で、鼻を押さえる。
そう簡単に見に来られるものではないのだから、と思って、何度目かわからないが、また空を見上げる。目の表面の水分さえ凍っていってしまってるのでは、と思うくらいに、目がしぱしぱする。だけど、多分俺の知ってる言葉に当てはめることなんかできないくらいきれいだと思う。人は作り方を知らないものは作ることが出来なくて、作り方を知っているということはすなわち説明できるということだ。だから、説明できない…言葉にできないものは人間には作れない。自然にしか作れない、奇跡の造形物。言葉にできないのなら、忘れないようにきちんと見ないとなぁ、となんとなく思ったのだ。
「トウジー 今日 Christmasだヨ!merry Christmas!Happy holidayだネ!」
「ああ。そっか。じゃあ、見上げてたらサンタ、通るかな」
「Oh……トウジはロマンチスト ダネ」
「そう?でも、俺今は特にほしいものないから来なくてもいいかな」
「欲しいモノ、ナイ?」
「うん。見たいものとかやってみたいことはあるけど…それは、こうやって自分で見に行って、経験するから」
そうすることが当然だと思ったからそういったのだけど、友人は”やっぱりロマンチストだ”と笑う。どうしてだろうか。
一人で経験したことが増えるたびに、それが俺の財産になっていく気がする。オーロラを見に来るのは、さすがに一人じゃ無理だと思っていたけど、なんだかんだ、たった一人でないにしろ、何とかなってしまったし。もしこれが、この「なんだかんだ」がサンタクロースからの贈り物だというんなら、やっぱりありがたく享受するべきだ。もしかしたら、どこかで何か一つ違えば、今俺の隣には誰かがいて、今の俺とは別のことを思ったのかもしれないけど。それはきっと、今となってはどうしたってあり得ないことだろうから。
俺は、息を一つ吐き出して、また空を見上げた。

『カナダからメリークリスマス、誰かさんへ』

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【犬飼二葉】
「んーと……牛乳は…200㏄…お姉ちゃん、そっちに計量カップある?」
「うん、あるよぉ。はい」
計量カップをお姉ちゃんから受けとる。と、お姉ちゃんがクスクスと笑いだした。
「なに?」
「鼻の頭に小麦粉ついてる」
「ええ!?」
「もー、どうやったらそんなところに粉付くの?」
笑いながら言われたのでとっさにぐしぐしとこすったものの、そんなこと僕が知りたい。お母さんが料理してるときってこんなに汚れてないのに、僕のエプロンは既にだいぶ汚れてしまった。
お姉ちゃんのエプロンだって対して汚れていないのに。
「男は料理しないからいーの!」
「えー?今時そんなこと言ってたらモテないよ、二葉」
「別にいーもん」
「あーん、ごめんね二葉。お姉ちゃん謝るからちゃんと一緒に頑張って作ろう?お父さんもお母さんも楽しみにしてるよ」
「……うん」
そう言われてしまっては仕方ない。今日はクリスマス。お姉ちゃんと一緒に、今年の両親へのクリスマスプレゼントを考えたけど、いろいろ相談した結果、何故か行き着いたのは今日の夕飯を僕たちで作るということだった。その間二人でクリスマスデートにでも行ってきなよ、ということで、お父さんとお母さんは二人でお出かけ中。
「むむむ……」
料理、っていうのは簡単そうに見えるのに、これが何故か難しい。なるほど、こんなのをお母さんは毎日、それも三食分もやってるのか。そう考えると頭が下がる。僕なら面倒でこんなのごめんだ。一食でギブアップ、ひたすら毎日目玉焼きの日々だろう。
それでも、この一食は何としてもおいしく完成させなければいけない。だって、これはプレゼントだから。自分でいいと思えないものを誰かに贈るなんて、その人の好みを完全に把握していない限りできはしないことだ。だから、頑張らないといけないし、途中でやめちゃいけない。よし、と腕まくりをして、気合を入れなおした。

「で、できた~~!!」
何とかかんとか、お姉ちゃんに助けを求めつつ完成させた料理たち。半分以上お姉ちゃんがほとんどを作ってしまったけど、ホワイトシチューだけは僕が全部やった。シチューってつくるのこんなに疲れるんだ……
「やっぱ僕は食べるの専門~…」
「ふふ。でも頑張ったね二葉。すごくおいしくできてるよ」
「…ほんと?お世辞じゃなく?」
「うん。そろそろお父さんとお母さんも帰ってくるだろうし……ん?」
噂をすれば、だろうか。玄関が開く音がした。そしてほどなくしてリビングの扉が開いて、二人が帰ってきた。いい匂いがする、と聞こえたものだから、これまでの疲れはどこへやら。
すぐにでも食べてもらいた気持ちに駆られる。

『お父さん、お母さん、メリークリスマス!早く座って!すぐ料理出すから!』

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【鶯谷芽白】
「はー……駅前、こんな風になってたんだあ……」
目の前に広がるイルミネーションに感嘆のため息が出る。見慣れた風景でも、こうして飾り付けられていると、どこか特別に感じる。
同じようにイルミネーション眺めたり、それを背景に写真を撮っている人たちは、寄り添っている男女も多くて。やっぱりカップルなんだろうか。
そうだよね、だってそれって定番のやつだ。好きな人とこんな光景を見ることができれば、それはそれはロマンチックだろう。
綺麗だね、でも寒いかも、なんて言いあったり、ちょっと冷えた体をぶっきらぼうに無言で抱き寄せてくれたりして。でも、その無言が照れ隠しだってわかってるから、こっちも何も言わないでそっと寄り添ったりして。
「そういうのは……いいなぁ~…」
感嘆とは違う、一種の恍惚のため息が出る。実際の私は今何をしてるのかというと、シャーペンの芯が切れたから買いに来て、ついでに買ってきてと頼まれたコーヒー豆を買ってきたところです。まあまだ中学一年生だし、そういうのは早いかなっていうか、そう思わないでもないんだけど…
それでも憧れは止められない。初めてのキスはこういうロマンチックなところでデートした後がいいなとか、おそろいのアクセサリーを買いたいなとか。クリスマスは、クリスマスだというだけでそういう憧れを掻き立てるのに十分だった。
こんなところでばったり好きな人に会ったり、とか。少女漫画ではありがちなんだけど、やっぱり難しいよね……
「あれ?鶯谷?」
う  そ  で  しょ
「こ、古後知!え、わー、ぐ、偶然…?」
「おー、偶然な!買い物?」
「うん、そう…もう帰るとこだけど…」
「そっか」
嘘でしょ嘘でしょ、びっくりした!こんなとこで、こんなとこでクラスの男子と出会うとか。変なこと考えてたから妙に意識してしまう。
「あ、そーだ。ちょっと聞いてもいいか?」
「…何を?」
「女子ってクリスマスにどんなプレゼントもらったら嬉しいのかと思ってさー。全然わかんなくて。鶯谷がもらったら嬉しいモノとかでもいいぜ」
「え…ええ!?古後知、誰か女子にクリスマスプレゼントあげるの!?」
「ん?あー、身内になー。買ってこいってどやされちゃって」
「ああ、そっか…」
びっくりした、第二弾。何かと心臓に悪い。
「そうだな……えっと、アクセサリーとか、動物系のグッズとかは定番だと思うけど…あとは、かわいい入れ物に入った飴とか」
「ふんふん…なるほどなー…。おっけ、ちょっと探してみるわ!サンキュー!」
「う、うん…役に立てたならよかったけど…じゃあまた、学校で」
「おう!」
雑貨屋さんがあるほうへ歩いて行った古後知に手を振る。はー…ラッキーなこともあるもんだなあ…
「あ、そーだ!もう暗くなってきたから!気を付けて帰れよなー」
「! あ、ありがとー!」
少し距離が離れてしまったので、こっちも声を張る。あっちも手を振っているのが見える。
なんていうか、なんていうか……

『メリークリスマスってかありがとう神様!!』

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【宇佐美智彦】
「うっわお兄センスなさすぎない?何このバランス悪い飾り付け。ていうかツリー出すの遅すぎでしょ、だから女にフラれるんだよ」
「なんで明日香お前大好きなお兄ちゃんにそんなこといっぱい言えるの?悪魔か?」
「……っ、……っ!」
「なんでトモは尊敬する兄の不幸で息できないほど笑えんの?鬼か?」
「~♪~~♪」
「茜ちゃんは何してんの」
「サンタさんにおてがみ書いてる!」
「なんでこの兄弟の末っ子に育ってそんなことできんの~!?天使か~!?」
宇佐美家は今日もにぎやかだ。気持ち小さめな、末っ子の茜よりも少し背の低いツリーを長男の祐介が飾り付け、その偏った飾り付けに、長女の明日香が関係ないことまで混ぜて罵倒していく。それがツボに入ったのか次男の智彦はうずくまって音もなく爆笑し、末っ子の茜はマイペースに鼻歌でジングルベルを歌いながら、サンタクロースへの手紙をしたためている。茜のまだ小さな世界には、未だサンタクロースは健在のようで、智彦のお下がりとして貰った色鉛筆を駆使してうきうきと手紙を彩っている。
「はぁ~…茜はこんなに良い子なのに」
「! いい子!?ゆう兄、あたしいい子!?」
「お~いい子だよ茜は」
「サンタさん来る?」
「来る来る、いい子すぎて30人は来るねこれ」
「サンタってそういうシステムじゃないじゃん」
「っていうか諸々の発言が茜の夢壊す発言でしかないから男ども黙ってほしい」
明日香が人差し指で×印を作って口元に持っていく。小学四年生、宇佐美茜はお姉ちゃんセコムによってお兄ちゃんたちから年相応の夢を守られているようだ。
「ねえねえとも兄、これちゃんとサンタさんに見える?」
その茜が、智彦のところへ自信作の”サンタさんへの手紙”を持ってくる。
「ん、なんでおれなんだよ」
「だってとも兄が一番お絵かき上手だもん」
「ふーん……おお、いいじゃん。これサンタな?」
「そう!」
「で、こっちがツリーで、こっちがトナカイか。これは?茜?」
「そう~!」
本人の意図したとおりに表現が伝わり、非常に満足気な返事が返ってくる。
「でね、ゆう兄とお姉ちゃんはもう大人だしね、とも兄も今年から中学生でもう大人になっちゃったから、サンタさんにプレゼント貰えないだろうなって思ったの。でもみんないい子だから、大人だけどプレゼントあげてくださいってあたしがお願いしておいたから、何がほしいか考えておいてね」
その発言に、長男、長女が石化。

『メリーメリークリスマス、大天使!!』

「あ」
「あ」
「「茜お前~!!!!大天使か~!!」」
「おれは混ざんないからな」

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【鬼ヶ島桃子】
「はー……どうなることかと思った…」
「あはは…ハラハラしちゃったね」
光輝と瑞希が、そうつぶやく。幼稚園でのサンタ役を終えて家に帰る途中でのこと。
危うく本物のサンタでないことがばれそうになったのを、二人が助けてくれて何とか乗り切ったのだ。
正直、子供だし大丈夫だろうと思っていた。自分が同じくらいの時には、そんなことを疑ったこともなかったから。
「桃子?大丈夫?」
「おーい、なんだよ。引き受けたのは桃子だろ?」
「え?あ、ごめん、だいじょぶ」
何も言わなかったからか、二人に心配されてしまった。もっとちゃんと考えなければいけないことだったんだろうなと、昨日、サンタ役を簡単に引き受けてしまったことを後悔していた。
「上手くいったんだからよかったじゃん」
「うん、みんな喜んでたよ」
「うん……でもあたし、嘘ついちゃったから」
「嘘?ああ、サンタじゃなかったからってやつ」
「でも、きちんと謝っただろう?それができるのは、桃子のいいところだよ」
「違う…サンタの友達じゃないのに友達だって嘘ついた」
そう、子供たちに本物のサンタじゃないことを見破られてしまって、何とかその場を乗り切るために自分たちはサンタの友達で、プレゼントを預かってきたということにしてしまった。しかも、二人がフォローしてくれて何とか成立した嘘だ。
「あたし、子供たちに夢をあげるつもりだったんだよ。だって、自分がちっちゃいころにああしてサンタさんから直接プレゼントをもらうのが本当にうれしくて、クリスマスが近づくたびにすごく楽しみだったから。お手紙書いたり、お父さんの靴下の方が大きいから、そっちを借りて枕のとこに置いたり、なんとかお話ししたくて夜遅くまで起きてようとしたり。でも、今日あの子たちはサンタさんの友達…それも、嘘の、偽物の友達に貰ったことになっちゃった」
そこが、ずうっと引っかかっていた。いつかあの子たちがそれを知ったときにがっかりしないか、それがすごく心配だった。あの子たちがいずれ振り返る「クリスマス」の思い出を、だめなものにしちゃったのかもしれないって。
「なんだ、そういうこと?」
瑞希があたしの好きな瑞希の笑顔をしていた。手をぎゅっと握って。
「サンタさんの夢はね、あの子たちがもう持ってるものだよ。もっと小さいころに、サンタさんは子供たちの中に住み始めるんだ。でもサンタさんはずっとそこにはいられない。その日が来たら、自然と旅立ってしまう。サンタさんがその子の中から旅立ってしまうのには、遅いか早いかの差しか、ないんだよ。桃子は今日、あの子たちの中から追い出されそうになっていたサンタさんの夢を守ったんだよ。今日、ずっと早く”その日”が来てしまうことを防いだ。だから、桃子は立派にサンタさんの代わりが出来たんだよ」
「まもった……そっか。へへ。そっかぁ。ならよかった!」
「さっき泣いたカラスがもう笑うって感じだな」
「光輝は意地悪だから光輝のところにはサンタさん来ないよ」
「友達だから来る」
「来ない!」
「あはは、光輝って素直じゃないよね。本当は桃子が元気になって嬉しいのに」
サンタさんの夢は、まだあたしの中にも住んでるんだろうか。サンタさんは、いないような気もするし、どこかにいる気もする。いたらいいなぁと思うし、いなくてもいいなぁと思う。だって多分いなくても、サンタさんの友達は世界中にいて、サンタさんの代わりに大切な人にプレゼントを渡せるから。だから、サンタさんはいなくってもいるんだなあ、と思う。

『あ。まだちゃんと言ってなかったかも!光輝、瑞希、メリークリスマス!来年もサンタさんの友達やろうね!』

「朝いちばんに聞いた」
「聞いたねぇ」
「あれぇ?」

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【菊池真紀菜】
「あ、真紀菜?今どこ?ってか今日ヒマ?」
「は?」
鈴音からいきなり電話がかかってきたと思ったら、唐突な質問。唐突すぎてつい間抜けな声が出た。
「今日イブじゃんさ?あっもしかして真紀菜一瞬で彼氏作ったりした!?彼氏と過ごす的な!?」
「いや……そんなインスタントな彼氏はいないってか要らないけどさ…」
「え~マジ?ウチは欲しいわ~」
「んで?ヒマだったら何なの」
「あ~そうそう!泊まりに来ん?パジャマパーティしよ!」
質問も唐突なら提案も唐突なもので、いきなり宿泊に誘われるのはどうなんだ。しかも自宅。
「え…いや、今日クリスマスイブ…アンタん家、さすがに家族全員いるでしょ」
「だいじょぶだいじょぶ~ってかママがどうせだし真紀菜ちゃん呼んだら?って言ってたしー、パ…お父さんもいいよって言ってたし。やー、なんもないし外で遊んでるほうが楽しいからあんま友達呼ばないからー、なんかどんな友達いるか気になってるみたい?だし」
「…」
それは、つまるところ。娘が悪い友達と付き合っていないか気になっているのでは…という言葉は飲み込む。鈴音は、中学に入ってから顕著に外見の傾向が派手になった。一般的な父親としてはそりゃあ口出しもしたくなるだろう。いっつも聞かされている愚痴からは、なんとなくそんなイメージを抱いていた。
「あれ?もしもーし?真紀菜ー?」
「あ、ごめん。聞こえてる」
ヘンな風に勘ぐってしまって黙ったせいか、電話越しに鈴音が心持ち大きめに声を出した。
「んーと……無理そう?めっちゃ急だったし。だったらやめとくけどぉ…」
そうは言うものの、声に「残念だ」という気持ちがにじみ出ている。アタシの方は…大丈夫か大丈夫でないかで言えば、大丈夫だ。なんせ、今だって家にいても仕方ないから外にいるだけだし、どうせ今日も明日も両親と過ごす予定はない。
鈴音のお父さんに悪い友達と付き合っていないか、の判断基準にされるんだとしたら正直自分でいいのか微妙な線だとは思うのだけど。
「…いいよ。平気だからお邪魔する」
「わ、わ!マジ!?え~めっちゃ嬉しいんだけど!絶対ヤダって言われると思ってた!」
「どっちなのよアンタ」
「じゃあさじゃあさ、今から部屋掃除するし夕方の6時過ぎとかに来て?」
「ハイハイ、んじゃあ後でね。アタシの寝る場所くらいは確保してよ?」
「オッケーっす隊長~!」
やけにご機嫌な鈴音の返事を聞き届けてから、電話を切る。今が3時ちょっと前。あと3時間ほど時間がある。人の家に泊まりに行くだなんて初めてだからどうしたらいいかわからないけど、こんな日に泊めてもらうのだし何かしら持ってった方がいいのだろう。幸いそこらじゅうでクリスマス用のお菓子が売っているし、適当なものを見繕って、一度家に帰って支度をしよう。
と、再び携帯が鳴る。かけてきてるのは鈴音。何だろうと思って電話を取ると、ハイテンションな声。

『言い忘れてたし~!真紀菜メリクリ~!』

それだけ言って切れた電話。
「……あとで合流した時でよくね?」
ディスプレイを眺めながら、つい吹き出す。
さて、何がいいんだろうなあ。鈴音へのクリスマスプレゼントも必要か。それもついでに見ておこう。

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【木場アズキ】
ピピピ、ピピピ、と電子音が鳴る。その音に目が覚めるのを感じ、もぞもぞと目覚まし時計を探した。
手のひらに慣れた感触を感じ、そのまま手探りでボタンをカチッと押す。
デジタルの目覚まし時計はピピ、と短く鳴いたのを最後に鳴りやんだ。
表示は7時56分。もう冬休みに入り、学校に行く必要はないが、昨日の夜のうちに止めておくことをすっかり忘れていた。
昨日はクリスマスイブで、母さんが張り切って夕飯の料理を豪華にするのだと買い出しの荷物持ちに連れ出され、そのままセールをやっていた服屋に足が向いてしまった母さんに着いていき。嫌な予感はしていたものの、やっぱり長時間の買い物に。その長時間の買い物の間、何度も視線を感じてきょろきょろしたので母さんに何してるの、と聞かれた。仕事から帰った父さんは暢気なもので、豪華な夕食と、普段は食卓に上らないワインに上機嫌になり。買ってきたケーキを食べて、クリスマスプレゼントをもらった。中身は父さんと母さんの好きなアーティストのアルバムだったので、部屋に戻ってから聞いていた。3曲目が気に入った。
もう一度寝てもいいけれど、朝の冷えた空気に目も覚めてしまったし、昨日がクリスマスイブだったのだから、今日はクリスマスの朝なんだということを思い出す。前まではこうして朝起きると枕元にプレゼントが置いてあったものだが、我が家の場合は去年ネタばらしをして直接くれる形式になった。自分としてはどちらでもよかったが、そもそも毎年、クリスマスの日にこうして家族と過ごしプレゼントがもらえること自体、恵まれた環境であるという人もいるのだろうし、確かにそうだと思う。
ベッドから降り部屋を出て、ひんやりとした廊下のフローリングをひたひたと歩く。リビングの扉を開けると、すでに温められた部屋の空気に迎えられる。
「あら、もう学校ないのに早いのねアズキ。メリークリスマス」
「アズキは冬休みか、いいな。父さんは仕事だ、ハハハ。メリークリスマス」
ほら。こうして起きたときにはすでに朝食の準備が進んでいて、寒い冬でも部屋は暖められていて。兄弟はいないけど、両親がそろっていて、起きて顔を合わせれば挨拶が交わされるし、よほど倫理に外れたことをしなければ、自分のことを意味なく否定などしないし、味方でいて守ってくれる。行動如何によって、褒められも叱られもしてきた。七五三、誕生日、新年、入学、卒業。節目には祝い事もきっちりやってきた。
そんな、多分一般的な、平均的な”普通”の家族。
それが僕の家族。

『メリークリスマス。今日の朝ご飯、なに?』

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【久我山鈴音】
「鈴音、そんなにそわそわしてても真紀菜ちゃん来る時間は変わんないわよー」
「やー、そうだけどー」
「あの子すごくお行儀良いじゃない?6時過ぎって言ったんなら6時10分くらいに来るわよきっと」
「まじかー」
時間は6時ぴったり。誘ってはみたものの、来てくれると思ってなかったからすごく楽しみだ。じっと時計をにらんで待ちわびる。
かちかちと進んだ針が6時8分を示した時、インターホンが鳴る。
「来た!!はいはーーーい!今出るー!」
ばたばたと玄関にはだしで飛び出して、扉を開ける。が、そこには待ち望んでいた人物とは別の人。
「いらっしゃー……ってあれ?お父さんだし。なんだぁ」
「鈴音、そこはおかえりなさいだろう」
「おかえりなさぁい」
「お友達なら家の前で会ったよ。さ、どうぞ」
「あ、すいません…お世話になります」
お父さんの後ろから、真紀菜がひょこっと出てきた。お父さんにぺこ、と軽くお辞儀をしてから、丁寧に靴を脱ぐ。
あれ?いつもとメイク違うなぁ。服もいつもより地味くない?うーん。でも似合ってるんだよなあ。
「あの、これ…よかったら。クリスマスにお邪魔しちゃってすみません」
「え?これはこれは…なんか逆に気を遣わせてしまったみたいでごめんね?ありがたくいただきます」
「いえ、全然。皆さんで召し上がってください」
「??」
あ、あれ?なんか、なんか真紀菜、キャラ違くない?なんかすごい良い子っぽいってか、優等生っぽいってか……
「鈴音?」
「うぇ!?あ、う、うん!ごめん何でもない!」
ぼんやりしちゃってたのか、お父さんに名前を呼ばれてはっとした。
「真紀菜、ウチの部屋こっちー。行こ」
「うん」
なんだか変な感じだなー、と思いながら、真紀菜を部屋に案内する。
真紀菜はそのあともママに手伝うことはないか聞いたりしていたせいか、ママにもお父さんにも気に入られちゃって、ご飯の間中…
「いやー、真紀菜ちゃんみたいないい子が鈴音の友達でよかったよ!」
「真紀菜ちゃん昔からいい子だもんねえ?」
こんな感じ。ウチとしては、もう大満足。だって、友達関係までギャーギャー言われんのとかヤダもんね。それに、やっぱり友達が褒められるのは嬉しい。真紀菜も楽しそうだし、呼んで良かった。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ。あのおうちでクリスマスを過ごすことはなさそうだから、楽しんでくれたらな、なんて気持ちもあったから。でも、いつもと全然キャラ違うし。無理させてないかな、って気持ちもあって。
「ね、真紀菜。無理してない?」
こっそり小声で聞いてみる。
「え?」
真紀菜はちょっとびっくりした後に、考えて、ウチにだけこっそり耳打ちした。
『クリスマスって、そんなに悪いもんじゃないね。メリークリスマス』

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【車屋昴】
12月24日、ところは車屋家。この男所帯を支える紅一点の母が買い物に出た隙を狙って、車屋家の男が三人寄り集まっていた。
神妙な表情ででお互い顔を見合わせて、次男の昴が口を開いた。
「1021円」
「5060円」
「7879円……」
それに続き、長男と大黒柱である父も。父の発言を聞いた息子たちは口をそろえて叫ぶ。
「「うっそォ!!」」

「なんで兄ちゃんとそんな変わらねぇんでぃ、父ちゃん!」
「社会人にはなァ!この時期忘年会ってのがあんだ!」
「それにしたってもうちっと何かないのかよ!」
「ねェ!俺の小遣いは母ちゃんが握っている!」
「「あー………」」
緊張の糸が切れた部屋の中で、三人の声が喧々囂々とする。が、この家の中のカースト最上位、母の存在がキーポイントを握っているとわかるや、息子たちは妙に納得した声を上げる。
「じゃあしょうがねぇな」
「うん、しょうがねぇ。相当機嫌が良くても小遣い交渉は命懸けだもんな…」
そう、典型的なかかあ天下の車屋家では、母が絶対。一番怖いのは母であり、妻である。そんな環境でくらす車屋家の男三人が今回画策したのはその最強のボスへのクリスマスプレゼント。怖い存在とはいえ、家事の一切を引き受け、家計を管理しているのは母だ。料理をして、洗濯と掃除をして、イベントごとがあれば弁当を作り、ようするにそういった仕事を日々請け負ってくれていることに、三人とも感謝をしてはいるということだ。ただしこの三人、どこか江戸っ子気質。洒落たプレゼントなんてものはわからない。ひとまずそれぞれの所持金を確認したものの、三人の所持金を合わせても1万5000円にも満たないことが発覚してしまったところだ。
「んじゃ」
「最終手段だな」
「でもよぉ、これほんとに母ちゃん喜ぶのか?」
「しょうがねぇだろ…金がねぇんだ、体を使うしかねぇ…!」
そう言って何かを作り始めた三人衆。母が帰って来はしないかとちらちら玄関を気にしつつ、作業を続けたのだった。

「ん…なにこれ?」
日付は変わって25日、朝。まだ静かな車屋家で、一番最初に行動を開始する母が、テーブルの上に昨日の夜まではなかったものを見つける。
また散らかして、とおもいながらよく見てみれば、どうやら自分あてであることに気づく。
「ふふっ…本当になんなの、これ。全く、馬鹿だねぇ。こんな、幼稚園児がくれるみたいなプレゼント…」
そこには「母ちゃんへ いつもありがとう サンタクロース隊より」と書かれた紙と、10枚つづりの手作りチケットらしきものが3組、それと大きな手作りチケットが一枚。
それぞれに「買い物行きます券」「洗濯手伝います券」「飲まないで帰って来ます券」と、「大掃除手伝い一日フリーパス」と書かれている。
そのプレゼントを見る母の目は優しく細められていた。
「あたしはアンタたちが仕事行ったり学校行ったり、健康で元気に生きてくれるだけで充分幸せだってのに」
そう、小さくつぶやいて。未だいびきをかいて眠りこけるサンタクロースたちには聞こえない。
「まあ、せっかくもらったんだから有効活用させてもらうか!」
よし!と気合を入れて、まずは男性陣を起こすために寝室の扉を大きく開けて、いつものように声を張った。

『そら!いつまで寝てんだいバカども!メリークリスマスだよ!』

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【黒木深星】
「……」
「深星?」
「…おとうさん、すっごかったねえ…」
目を瞑れば、まださっき見たばかりの星空が瞼の裏に広がっている。今日は、クリスマスイブ限定のプラネタリウムをお父さんと見に来ていた。チケットが毎年抽選になるくらい人気なものだけど、クリスマスプレゼントだと言って、お父さんが連れてきてくれた。そうしてみた星空は、すごくすごく綺麗で、日本からはめったに見れないような星空も見ることができて、まだドキドキが鳴りやまない。
「深星が喜んでくれてよかったよ」
「うん!すっごく嬉しかったし、すっごく楽しかった!」
「チケットが二枚しか取れなかったことだけが……心残りだけど…」
「…おかあさん…お留守番だもんね…」
どうしても二枚しかチケットが取れなかったから、わたしとお父さんとで来た。お母さんは気にしていないようで、クリスマスのごちそうを作って待ってるから楽しんでいってらっしゃいと送り出してくれたけれど。
「でもそうだよなあークリスマスだもんな…一人でお留守番はなぁ。悪いことをした…」
「……ねえ、おとうさん。おかあさんにクリスマスプレゼント買っていこう?わたしのお小遣いと、おとうさんのお小遣い合わせて…なにかかわいいの」
「かわいいのかあ」
うーん、と首をひねるお父さん。
「おかあさんもお星さま好きだよ。そういうの、何か選ぼうよ」
「うーん……」
「もー!なんでそんなに嫌そうなの?」
なんだか乗り気でなさそうなお父さんにちょっとだけ怒ってしまった。それを見たお父さんは、困ったように笑いながら訳を教えてくれる。
「白状するけどな…父さん、プレゼント選びのセンスがな……結婚する前、お母さんにプレゼントを渡す度笑われてたなあ、って」
そうなのか、それは確かにちょっとためらっちゃうかも、と思ったけれど。でも、そうじゃないの。プレゼントって、そうじゃない。
「なんでもいいの!」
「え?」
「だって、好きな人が考えてくれたんなら、きっとそれだけですっごーく嬉しいもの。プレゼントってそういうものだよ。少なくとも、わたしの知ってるおかあさんはそういう人。だから大丈夫」
きっと笑ってしまったのだって、嬉しくって抑えられなかっただけだって、そう思う。
「…そうだな。でもかわいいのを選ぶのは深星の方が上手そうだから、父さんに教えてくれ」
お父さんの手が、わたしの頭を撫でる。私はこの手が大好きだ。
「えへへ…じゃあねじゃあね、あっちに見てみたいお店があるの」
お父さんの大きな手を引っ張って、お店の方へ走っていく。いつの間にか暗くなっていて、イルミネーションが点灯していた。
青色と白のイルミネーションできらきら光る街は、まるで星空みたいで、その中を走っているみたいでやっぱりドキドキした。

『メリークリスマス、素敵な夜空!』

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【古後知シズル】
「参ったなー……どうしたもんか」
駅中にあるショッピングモールのど真ん中で、腕組みをして唸る男子が一人。シズルは途方に暮れていた。
クリスマスプレゼントを買ってこいと姉に蹴飛ばされて家を出てきたはいいものの、何を選んだものか全く思いつかない。
毎年のことであるというのに、だ。いつか贈ったものと同じものを贈るわけにもいかないし、女子が好むものを熟知しているわけでもないシズルにとって、この毎年のプレゼント選びはいささかハードルが高いことだった。
いっそ誰かにアドバイスでも頼むのだったと後悔しても、当日となってしまってはそれもできない。あまり時間をかけるとまた携帯に連絡が来そうだな、と所在なさげにウィンドウを眺めながら歩を進めるものの、良さそうなものがない。
「オレの小遣いじゃ自由に選び放題ってわけにもいかねえし~…お。あれ?鶯谷?」
来た時には点灯していなかった駅前のイルミネーションが灯っていたのに目を向けると、クラスメイトらしき後ろ姿。多分。
特に意図したわけではないが、声が届いた上にそれは本人だったようだ。
声をかけるつもりはなかったが、結果的にそうなってしまった以上そのまま立ち去るわけにもいかないので、成り行き上他愛ない会話を交わすことにした。

「は~…やっぱアクセサリーとかになるよなぁ……つっても…」
クラスメイトの女子から、女の子の好みを聞き出すことは成功したものの。自分が考えていたものと大きな相違はなく、また所在なく歩き回る。
それに、相手はそれなりの値段のアクセサリーを所持していることを知っている身としては、下手なものを渡せない。そもそもアクセサリーとは身に着けるもので、強く個人の好みが出るのではないか。
あとは何と言っていたか。ああでも、意見を聞かせてくれた女子とはちょっと傾向が違うから好みもちがうだろうなあ、と頭を悩ませ続けるものの、妙案が浮かぶわけもないので、ひとまず適当な雑貨屋に入って棚を見まわす。がまぐちの財布、箸、和紙やちりめんのキーホルダー……と、ここまで眺めてから入ったのが和雑貨店だったことに気づく。
一応和っぽいものをモチーフにしたアクセサリーはあったものの。
「……(高い……)」
こりゃ無理だ、とため息をついて目線をずらした先に、細かな星のようなものが入った瓶。なんだこれ、とまじまじ観察してみれば、どうやらそれは金平糖のようだった。
「ふーん……かわいい入れ物に入った飴…に、カウントされるよな」
棚にディスプレイされているさまもなかなか可愛らしいと言えそうだとシズルは思った。彼自身の感性では瓶に入った飴でしかないのだが。
それに、これなら忙しい合間のエネルギー補給にもいいかもしれない。糖分はエネルギー補給に良いことは、数々の運動部を助っ人してきた中で学んだことだ。
うん、そうだこれにしよう。なんだかんだ、喜ぶ姿も想像できる。
なんとなく、自分用にも買おうと思い立ち店員へ向かって声をかけた。
「すんませーん。これ、2個ください。あ、片方ラッピングで」

『メッセージカード?あー、メリークリスマスって書いといてください』

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【佐倉香帆】
「うーん…どうしよう~決めきれないよ~…」
商品を手にとっては、もっといいものがあるんじゃないかと戻す。その繰り返し。品を変え店を変え、もうすでに3時間は経った。毎年悩むけど、今年は特に悩む。めぐは好みがわかりづらい、というか、何かほしいもの、という観点になるとマウンテンバイクに関連するものばかりで、私にはさっぱりわからない。
彼女のプレゼントに迷う彼氏の心理ってこんな感じだろうか。幼馴染みだから付き合いも長いし、距離も近い親友だっていうのに、こんなに決まらないなんて情けない限りである。
「もっとリサーチしておくんだったな~…もしくはマウンテンバイクについて勉強を…」
もういっそのこと、めぐの好みじゃなくて自分の好みで決めてしまおうか。プレゼントは自分で買わないようなものがいいっていうのを聞いたこともあるし…
となれば、いっそのことかわいいパジャマでもプレゼントしちゃおうかな。朝迎えに行くたびに、くたびれた家着を着ているのが気になる…そういうのを気にしない子なのもわかってるけど。
もうずいぶんと寒くなったし、肌触りのいいもこもこしたかわいいパジャマもとい部屋着。いいかもしれない。絶対自分では買わないだろうし。
そうと決まれば善は急げだ。さっき通りかかったお店によさそうなものがあった気がする。そこへ向かおう。

「ん~…めぐはやっぱこっちの色かな…」
目的の店に到着して早10分。いくつかあるデザインと色を見比べて、どれが一番めぐに似合うか頭の中で試着させていく。
ついてきてくれれば早かった、というかどうせなら一緒に来て、お互いへのプレゼントを選ぶみたいなことがしたかった。…が、無理だろう。簡単に想像できる。「母親の買い物に付き合わされている息子」の図が完成すると。今私がすごく悩んでいるこれも、「どれがいい?」なんて聞いたところで「どれでもいい、っていうか本当にこれ着せるつもりなの」とか渋い顔して言うんだろう。うん、これ完全に母親のやることだ。…まあ、いいよね。だって、めぐにはそういうことをしてくれる人がもういないんだ。私がちょっとお節介焼いたって、いいよね。
その場にいなくても、プレゼントを渡した時のその人の反応を考えたり、ちゃんと使ってくれてるところを想像したり。プレゼントを選ぶ時間は、いつもと違う角度からその人のことを想う時間になる。だから、今のこの時間も楽しいものだな、と考えながら私はプレゼント選びに戻った。

『メリークリスマス、ベストフレンド』

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【笹島瑞希】
「ふぉっふぉっふぉ~!メリークリスマーース子供たち~!」
「いい子にしていたかな?」
「い、いい子にはプレゼントを持ってきたぞーい」
園長に教えてもらった合図…つまり、子供たちの全力のサンタさんコールを聞いてから、プレゼント袋を持って三人で集会場に入っていく。
イメージ通りのサンタ服にひげの”サンタさん”が現れたことで園児たちのテンションが上がり、きゃーっと歓声が上がる。
なんでこんなことになっているかというと、桃子が、この幼稚園でのクリスマス会で出てくるサンタ役を引き受けたから。私と光輝はその助っ人というわけだ。
園児たちがきらきらした表情でわあっとこちらへ駆けてくる。この様子ならばれることもないだろうし、大丈夫かな、と安心したその時。
「あーっ!ももこねーちゃんじゃん!」
園児の中の一人が大きな声を上げる。桃子は地域的に多少の知名度がある。この辺の人たちは和菓子と言えば桃子の家の和菓子屋を利用するからだ。
サンタ服だし、ひげも付けているし、ばれないと思ったのだけど。最近の子供というのは何とも鋭いものだ。
「こっちはみずきだ!」
「こうきもいるー!」
「なんで?本物のサンタさんじゃないの?」
「やっぱりサンタさんなんかいないんじゃん!」
「えーっ!だってせんせいはサンタさんいるって言ったんだよ!」
ざわざわと疑念が広がってしまい、先生たちがなだめてもその動揺は収まりを見せてくれない。これは…まずい、かも……どうしよう…
光輝に目配せしてみても、首を横に振る。が、何を考えたのか桃子がひげを外した。
「は、はーっはっは!ばれちゃあしょうがないんだぞ!そう!あたしは桃子ねーちゃんだー!」
「あー!やっぱりにせものー!せんせいのうそつきー!」
「みずきもこうきも?みんなうそつきなの?」
「偽物じゃなくってだなー、えっと……そう!あたしたちは、サンタさんの友達なんだぞ!」
「ともだち?」
「ももこねーちゃん、サンタさんとともだちなの!?すっげー!」
園児たちが注目している。少なくとも、さっきのようなネガティブな空気ではない注目だ。このチャンスを生かせないだろうか。もう一度光輝に目配せすれば、今度は首を縦に振った。
言いだしてはみたものの、続きに困ってあー、うー、と唸る桃子のすぐ隣に歩み寄る。
「そうだよ。でもね、サンタさんはたくさんの子供たちにプレゼントを配らなきゃいけなくて、そうするとクリスマスの1日だけじゃ配り切れないんだ。ね、桃子」
「そ、そうだぞ!」
「だから、サンタさんに頼まれて俺たちがみんなに持ってきたんだぞー。クリスマスに間に合わなかったら、みんなが悲しむからって。な、桃子」
「う、うんうん!」
それを聞いて子供たちも、そっかぁ、じゃあサンタさんはいるんだね、せんせい嘘つきじゃなかったね、と口々に言い始める。よかった。これでなんとかなりそうだ。園児たちの後ろにいる先生たちもほっとした顔でこちらに会釈したり、指でOKサインを作ったりしてくれた。
「でも、あたしたちは本物のサンタさんじゃないから…そこだけは嘘ついちゃったよね。みんな、ごめんなさい。許してくれますか?」
「「「いいよ!」」」
子供たちが、にっこりと肯定の言葉をくれる。よかった。これで本当に何とかなりそうだ。それじゃあクラスごとに並んでね、順番にお名前を教えてください、と言えば、まだ小さな子たちが行儀よく列を作って並んだ。名前を聞き、プレゼントを一つ一つ、小さな手に渡していく。大切なこの言葉と一緒に。

『よくいい子にしていたね。メリークリスマス』

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【篠沢則貴】
「…あれ!?もしかして則貴くんじゃない?」
「え?えーっと……あ、二葉のお姉さん…?」
「そうそう!え~なんか久しぶりだねえ!背ぇこんなに伸びたんだ~」
花屋で種を見ていたら、思わぬ人物に遭遇した。幼馴染の犬飼二葉のお姉さん、若葉さんが、ふわふわの髪を緩くくくってエプロンをした出で立ちで鉢を運んでいる。
「えーと…バイト?ですか?」
「うん、そうだよ~。今日はねえ、15時までなんだけどね。則貴くんはお買い物?あ、好きな子にお花のプレゼントとか?」
「すっ…ち、違いますよ!花壇を整理したら少し隙間ができたので、そこに何か…と思って。あと春用の花も見たいなって」
今日の買い物の目的を伝えると、二葉のお姉さんは目をゆっくりぱちぱちとさせた後に目を輝かせた。その仕草が二葉に似ていて、やっぱり姉弟なんだなあと思う。
「へ~!則貴くんガーデニング好きなんだね?なんか嬉しいなあ~」
「まあ…趣味程度ですけど」
「クリスマスに男の子がお花屋さん来るなんて、大抵プレゼントだから勘違いしちゃった。ごめんね」
「クリスマス…あ」
クリスマス、という単語に、今日が25日であったことを思い出す。そうか、今日はもうクリスマスなのか。大抵毎年家族と過ごすので、特に意識していなかった。夕飯がちょっと豪華になるくらいのものだし。プレゼントとケーキはちょっと楽しみだけど。
「ありゃ~。その様子、忘れんぼさんだった?」
「…ですね…」
あはは、と苦笑すると二葉のお姉さんもうふふ、と笑った。笑った顔も二葉に似ている感じなのに、危険を感じないのはなんでだろう。女の人だからかな…?
でもそうか、クリスマスか。少しくらいならおこづかいもあるし、…お父さんとお母さんに何か買ってみようかなぁ。
とはいえ、なにも考えてなかったしどうしたものか。少し、ほかのお店を見て回ろうか。少し考えただけでは、両親が喜んでくれそうなプレゼント、好きなものがぱっと思いつかないことに気づく。もらってばかりで、あげようと思ったことがないからかもしれない。薄情な話だけど。ちょっと前まで、クリスマスは欲しいおもちゃがもらえる日だと思っていた節があったし…。
「あの、お姉さん。すいません。せっかく来たんですけど、やっぱ今日はやめておきます。自分の買い物しちゃったらプレゼント何も買えなくなりそうなんで…」
「わー、じゃあ誰かにプレゼント買ってくんだね!すてき!うん、じゃあ、また来てください。お待ちしてます!」
「はい。それじゃあ、失礼します」
「ありがとうございました~」
ひとつお辞儀をして、花屋を後にする。ショッピングモールの方に、いいお店はあるだろうか。というか、このおこづかいで買える範囲でいいものは…あるのかなぁ。ちょっと悩むし、相手が親だから少し照れ臭いけど。初めて自分から「クリスマスプレゼントを選ぼう」と思えたので、なんだか新鮮で楽しかった。この言葉を添えて、どんなプレゼントを渡したら喜んでくれるだろうか。

『お父さん、お母さん。メリークリスマス』

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【高里亜梨子】
カツ、カツ、カツ、と自らのヒールが立てる音が、やけに響く。車から降りて玄関の扉を開けるまでのわずかな距離。歩数にして20歩もないだろうその距離がいやに長く感じる。
「はぁ、疲れた」
つい零れてしまったため息が、冬の夜気に白く立ち昇って消えていく。ボヤキ程度のその一言も聞き漏らさなかった今日のお供が、すぐに反応する。
「ええ、お疲れ様でございました、亜梨子」
「今日はもう部屋に戻ってシャワーを浴びたら、すぐに休むわ」
「かしこまりました。メイドに準備させます」
「よろしく」
今日はクリスマスイブ。高里グループの会社、ひいてはそこと取引を行っている会社は山のようにあるし、その中にはそれなりに大きな企業やほかの財閥も少なくない。この時期は何かとパーティーに呼ばれることも多く、今日はお父様に言われ、その中の一つに次期高里家当主として出席してきた、というわけだ。お父様もお母様もそれぞれ別のパーティーや会食に呼ばれているらしく、今日屋敷にいるのは使用人たちばかりのようだった。…別に、それ自体は珍しいことでもないけれど。
「扉をお開けしても?」
「ちょっと待って」
正面玄関の扉の前に立ち、下ろしている髪を整えてから両手で払って背中側へ流す。ここ最近は髪をツインテールに結っていることが多いが、高里の名が大きく関わるときにはその場にあったスタイリングにしなければいけない。今日のようなパーティーはもちろん、大抵フォーマルな場になるのでストレートに下ろしていることがほとんどだ。
帰ってきたとはいえ次期当主がみっともない格好で戻れるはずもない。髪が落ち着いたのを背中で感じながら、ドレスの裾をきちんと直して、ショールを羽織り直す。
「いいわ、開けて」
私のその一言を合図に扉が開く。大広間で作業を行っていた使用人たちが、私の姿を視界に捉えると作業の手を止め深々とお辞儀をし、口々に挨拶する。
「おかえりなさいませ、亜梨子お嬢様」
「おかえりなさいませ、お疲れ様でございました」
「亜梨子様、お風呂のご用意はあと5分ほどで整いますので、お部屋でお待ちください。整い次第すぐ伺います」
「わかった」
見慣れた使用人たちに短く言葉を返して、部屋へと歩を進める。とにかく疲れてしまっていて、ヒールのせいで足も痛くなってきていたし少し気を抜いて休みたかった。自室でならそれが叶う。
足早に自室の前に立ち、扉が開かれるのを待つ。扉を開いてもらって、目に飛び込んで、きた、のは。
クリスマスツリー。たくさんのプレゼント。キャンドルの光。家を出る前にはこんなものは、なかったはず。これは。
「これ、は」
「おや」
声がした方へ顔を向けてみれば、扉を押さえたまま、どこかしてやったり顔の本日のお供。
「…あなた、何か知ってるわね?」
「いいえ?私は何も存じ上げませんが、ちょっと早めにサンタクロースでも来たのではないですか?なんせ亜梨子はいい子ですが忙しいですから。」
にっこり。まさにそんな擬音が似合いそうな顔に、聞くだけ無駄だと諦める。
部屋に足を踏み入れて、自分よりもずっと背の高いツリーを見上げる。よく見れば、飾りはところどころメッセージカードになっているようで、普段私の世話を担当している使用人たちからのメッセージが記載されていた。和洋折衷というか、想像しやすい箱にリボンのプレゼントから、上品そうな和風の小さな包み、果ては両手に抱えることが必要そうな大きな花束まで選り取り見取りの大量のプレゼントも、きっとその者たちからだ。
「…もしサンタの仕業なら、”サンタクロース”っていうのはチーム名になるわね。一人でできる仕事量じゃないわよ、まったく…勝手にこんなことして」
「まあ、まあ。いいじゃないですか。今日はクリスマスイブなのですから」
クリスマスプレゼントたちに触れながら、疲れているのもあってか、そうかもしれないな、とぼんやり思う。だって反則だわ。自室にこんなもの用意するだなんて。使用人たち相手でも、「次期高里家当主」として接さなければ、と意識しているのに。自室じゃあそんな意識、長く保てない。

『チーム”サンタクロース”に伝言を。格別の愛と感謝を込めて、メリークリスマス。と』
「……かしこまりました。正体を突き止めて、必ず」

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【手島木実】
今日はクリスマスイブだから、叔父さん夫婦がうちに遊びに来る。毎年のことなのでもう慣れたものだ。もう一度髪に櫛を通してから、ドレッサーの鏡で最終確認。よし。櫛をおいて、部屋からリビングへ向かう。リビングに入ると、テーブルの上に所狭しと並べられた料理たち。
「あら、よそ行きのに着替えたの?髪までセットして」
「おじ様たちに会うのってこういう時くらいのものだし。この前買ってくれたこれも、クリスマスっぽくていいでしょ?」
お母さんに言われて、くるりと一回転して見せる。新しいワンピースの裾と、さらさらの髪がふわっと広がった。
「うん、かわいいわよ。さすが木実ね」
かわいい。さすが。なんとも心地よくこころに響く誉め言葉に、気分が高揚する。
「まあね?」
「おお、おめかししたのか」
気分よく返事をしたところで、お父さんもリビングに入ってきた。私の姿を頭からつま先まで見て、お父さんもにっこり笑う。
「おめかしなんて…ちょっと身だしなみを整えただけでしょ。でもほら、お父さんが買ってくれたバレッタも使ったの。似合う?」
「ハハ、女の子は身だしなみのレベルが高いなあ。うん、似合っているよ。かわいい」
似合ってる。かわいい。そうよね、そうよ。自分でも鏡を見てそう思ったもの。当然と言えば当然の誉め言葉だけど、やっぱり悪くない。あたしはやっぱり美少女だ。
きっと同年代の男子も女子も、このあたしを見ればくぎ付けに違いない。でも今日は決して見れないでしょうけど。ふふん、残念ね。
「こんにちわー」
「あ、来たかな?木実、お出迎えしてきてくれる?」
玄関から、叔母さんの声。お母さんの指示に頷いて、玄関まで叔父さん夫婦を出迎えに行く。
「木実ちゃん!こんにちわ」
「おじ様、こんにちわ」
「今日はお邪魔するわね~。それにしても木実ちゃん、今日もかわいいわね~。お洋服も似合ってるけど、やっぱり着る子がかわいくないとよね」
「ふふ。ありがとうございます!玄関じゃ寒いので、中にどうぞ」
玄関を開けて二人を出迎える。叔母さんにも似合っている、かわいいと言ってもらえてつい、にやけてしまう。これまでいろんな人にかわいいと褒められてきたけど、両親以外からの賛辞というのもまた違うくすぐったさがあってたまらない。親戚といえど、お行儀よくというのを意識して二人をリビングへ案内する。挨拶を済ませ、乾杯してパーティが始まった。

「そうそう、木実ちゃんにクリスマスプレゼントを渡さないとな」
「えぇ…?今年もですか?悪いですよー」
何杯かお酒を飲んでほろ酔い気分になった叔父さんのその言葉に、内心待ってました、と思う。叔父さん夫婦は毎年クリスマスプレゼントをくれる。ある年はポーチだったし、ある年はブランド物のハンカチだった。身に着けられるかわいいブランドものの小物が多いのでひそかに毎年楽しみにしているのだ。
「はい、メリークリスマス!」
「ありがとうございます~開けてもいいですか?」
「もちろん!」
一度遠慮してから、お礼を言って受け取る。小さめの紙袋の中に、これまた小さな箱が見える。その箱も開けてみると、中からしゃらりと出てきたのはネックレス。シルバーを基調として、小さな宝石らしき石もはめ込まれている。
「……」
流石にびっくりして、言葉が出てこない。後ろからお母さんがのぞき込んできた。
「ちょっともう、兄さん?こんな高そうなの…」
「いいのいいの!そんな大層なものじゃないし、もう木実ちゃんはさ、俺たちの天使みたいなものだからね!」
「そうよ、フルート続けてるんでしょう?発表会の時にでも使って、ね」
「今でさえこんなにかわいくて、フルートまで出来ちゃって。こりゃあと数年もしたら女神様だなぁ!がっはっは!」
びっくりしていたけど、徐々に感覚が戻ってきたあたしの耳に届いた単語。天使、かわいい、フルートまで出来て、あと数年したら女神。
…。そっか、女神…あたしやっぱり、かわいいんだ。こんなに高そうなネックレスを貢がれちゃうくらい。そうね、そうよね。だって昔からさんざんそう褒められてきたもの。やっぱりそうね。正直中学入っていろいろ自信なくしかけてたけど、やっぱり間違ってない!数年後にはもっときれいになっちゃうんだから!高里さんなんてメじゃないわ!

『メリークリスマス、未来の素敵なあたし!』

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【寺島次元】
〈そういや今日クリスマスじゃね?〉
ヘッドセットから聞こえた、声だけしか知らないギルドメンバーの言葉に、通話中のメンバーが反応する。
[マジじゃん]
〈いやそうは言ってもクリスマスイベ2週間前から開催してんだから当日になったところでって感じはあるよな〉
「確かにな」
〈そーそー。あろうことか今回のイベントのボス、サンタのクリーチャーだし〉
「今やクリーチャーもサンタやる時代なんだな……」
[JTさんのせいで笑ってプレミして死んだの数知れないんで自覚してほしい]
〈最大の敵はJTだよなほんと〉
なんということはない、手は止めずに画面の中の敵を攻撃し続けながらのいつも通りの会話。世の中はもちろん、電脳世界でさえこのシーズンイベントを盛り上げるべく、動き回る。どこも同じように毎年飽きもせず、同じ曲をかける。有名だからと流している曲の歌詞が、去年のクリスマスに失恋した男の未練の歌だということを知らない奴ほどその歌に酔いしれる。
別にそれはそれでいいと思うし、イベントごとは嫌いではないが好きでもない。少なくとも、世の中の流れに合わせてまで騒ごうとは思わない。クリスマス番外編だからって誰もかれもが特別なクリスマスを過ごしているはずもないだろ?わかってるか?期待した奴いるよな?そこのお前。残念だけど俺は毎年こんな感じだ。ほっこりはほかの奴でしてくれ。あと本編じゃない限りこういう感じになるときもある。
あまりメタくすると大変なことになるのでこの辺で話を戻す。
まあつまり、普段でさえ「平日」「休日」程度の括りしかない俺だ。冬休みが始まってしまい登校義務がなくなった今、起きている間にやることはおおむねPCに向かうことばかり。
「あ」
[ん、どした?]
〈なんかミスった?〉
「や、オールマテリア泥した」
[えええええええええええ]
〈泥率0.1%切ってんのに〉
[JTのそういうとこキライ]
「俺はこういうの大好き」
[っは~性格悪ぅ!]
いわゆる超激レアドロップアイテムの獲得。ゲーム内イベントでドロップ率が上がらない限り、まずお目にかかれないアイテムだ。
なるほどこれがクリスマス補正ってやつなのか。だとしたらクリスマスもそう悪くない。あと2、3個オールマテリア欲しい。

それで、これが今回のテーマ兼テンプレらしいので仕方なく形式に則ってやっておく。対象は誰に取ればいい。誰でもいいか。
『メリークリスマス、サンタクリーチャー。あと20周は付き合ってもらおうか。』

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【豊臣秀】
「えーーーっくしょいっ!!」
もう何度目かわからないくしゃみ。クリスマスなんて一大イベントに、風邪なんて本当についてない。
オレは自分で言うのも何だけど、馬鹿な自覚があったから風邪なんか引かないと思ってたのに。
クリスマスこそ外に遊びに行くべき!みたいな考えは特にないけど、今年はサンタが新しいゲームを持ってきてくれたので、弟と対戦したくて仕方ない。でも、弟に風邪をうつしたらどうするんだと母ちゃんに隔離されてしまった以上、大人しくするしかない。
あーーつまんねえつまんねえ。体はだるくてつらいけどゲームがしたい。ずっとほしかったものをもらった日に遊べないなんてそっちのほうがよっぽどつらい。
不貞腐れて、もう一回寝ようかと思った時、コンコンとノックの音。
「秀?起きてる?」
「おー」
「昴くんとつかさくんがお見舞いに来てくれたよ」
「オッス、大丈夫か?」
「おっ、パジャマだー。って当然か」
驚く前に、昴とつかさが顔をのぞかせた。
「おわー!なんだよ!なんで来てんだよー!」
予想外の二人の登場にテンションが上がって、体を起こす。
「こら、せっかく来てくれたのに」
「大丈夫だよシゲママ!シゲいっつもこんなんじゃん」
「まったくこの子は…。風邪うつしちゃ悪いから、ほどほどにね」
「アザス!ちょっと話したら帰るんで!」
つかさは慣れたように部屋に入って布団の横にすとんと座る。昴は律義に母ちゃんに頭を下げてから、つかさの隣に座った。
「わざわざ来てくれるとか思ってなかったぜー」
「バーカ。子分が風邪ひいたってんだから、そりゃ様子の一つも見に来なきゃ親分じゃねぇよ!」
「よっ!車屋!」
「男前!」
「よせやいよせやい!」
いつものじゃれあいのようなやり取りが、めちゃくちゃ楽しい。あー、やっぱ遊びたい。せっかくの冬休みがつぶれるのももったいないし、二人と話しながら、今度から湯冷めには気を付けようと思う。
20分も経っただろうか、昴が立ち上がる。
「んじゃそろそろ帰るわ。いこーぜつかさ」
「おう!じゃなーシゲ。お大事に!」
それに呼応して、つかさも立ち上がって手を振った。名残惜しさは当然あるけど、風邪をうつすわけにはいかないので、素直にお礼を言って二人を見送る。
「あ、そだ。お見舞いに、おれと昴でアイス買ってきたから」
「おー、おふくろさんに渡したから、あとで食いやがれ」
「え」
アイス。そんなリッチなお見舞い品を持参していたとは予想外。っていうか、いや、めちゃくちゃ嬉しいけど。
混乱してうまく言葉が出ないオレを見て、二人がにいっと笑って言った言葉は。

『さっさと風邪治して一緒に遊ぼうぜ、メリークリスマス!』

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【鳥海つかさ】
「ふっ…ふっ…」
「49、50。はい、そこまで」
師範の声掛けに合わせて、スクワットをする。50回が終わり、一息。隣を見れば、涼子さんも足を伸ばして一息ついていた。
「やー、すんません師範、道場開けてもらっちゃって」
「いいえ、良いんですよ」
「つかさも付き合ってくれてありがとなあ」
「んーん。ヒマだったから」
そう答えれば、涼子さんが目を丸くする。
「えー?クリスマスイブだぞ!」
「え?うーん、そうだけど…」
うちはそんなにクリスマスという行事を重要視してないような感じがある。プレゼントはもらえるしケーキだって買ってきてるけど、夕飯は別にクリスマスっぽくもないし、ツリーとかも出さない。むしろ、大晦日や正月の方が豪華かも。年越しそばに乗っける天ぷらが今から楽しみだ。
おれの薄い反応に納得いかなかったのか、涼子さんが座りなおして神妙な顔でちょいちょいと手招きをする。何なんだ、と思いながらも、素直に近くによると秘密話をするように涼子さんが口元を手で隠して、小声で俺に聞く。
「好きな子とデートとかしないの?」
「そ、そんなのいないって!」
予想外の質問にびっくりして飛びのきながら否定するけど、涼子さんがにんまりと笑っていた。あ、これは…まずい…
「えぇ~?その慌て方は怪しいな~」
「おれのことはいいよ!涼子さんこそ、クリスマスイブなのにトレーニングなんかしてていいのかよ」
「お、そう逸らすかぁ。アタシは夜友達とクリスマスパーティするよ。つかさがもうちょっと大きかったら、呼んであげてもよかったけどなぁ」
確かに、まだ涼子さんより身長は低いけど。父さんだって背は高いほうだし、小学生のころに比べたらおれだって日々身長が伸びている。
小さな子ども扱いされているようなその言い方に、むっとしてしまって言い返す。
「おれ成長期だから!来年には涼子さんよりおっきくなってるよ」
「……。ぷっ……あははははは!」
それを聞いた涼子さんが、ポカンとしてから思い切り吹き出して笑い出した。
「なんで笑うんだよ!」
「いや、ごめ……かわいいなあって…師範、いい子だねえつかさ!」
「ええ、素直ないい子ですよ」
「うんうん、来年アタシよりでっかくなってたら呼んであげるからな」
別に呼んでほしくて言ったんじゃない。それに、どうせ来年も自分の方が背が高いと思っているだろう言い方に、怒り心頭だ。
「なんだその顔。おこった?」
「怒ったよ!涼子さんがそういう意地悪なこと言うからね!」
「あっははは!かわい~!意地悪だって!」
「…っ、今に見てろ~!」
すぐに涼子さんより大きくなって、涼子さんがおれにそうして馬鹿にするみたいに、頭に手置いて「小さいな」って言ってやるんだからな!!

『よしよしメリクリメリクリ。でっかく育てよ、つかさ!』

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【長塚みのり】
室内とはかなり差のある冷えた外気に、はあ、と息を吐き出した。
マフラーや手袋で覆えない頬に、冬の冷気が突き刺さる。来た時にはまだ明るかったのに、もう真っ暗になってしまった。
早く帰ろうといつも通りの帰路をたどる。駅前に展開されたイルミネーションの前には、寄り添うカップルやはしゃぐ子供を連れた両親らしき人が集まっていた。
その中に、見覚えのある髪型の女の子を見つける。
「…鶯谷さん!」
「へ、え!?わー、みのりちゃん!どうしたの?」
なんだか一人ぼんやりと立ち尽くしていたので声をかけると、私に気づいた鶯谷さんが駆け寄ってくる。
「私は冬期講習の帰り」
「あー、塾かあ。えらいね」
「そんなことないわ。行かせてもらっている以上、行動で示さないとだから…鶯谷さんは?」
「私は買い物の帰りだよ」
鶯谷さんが手に持っていたビニール袋を、見えやすいように少し持ち上げた。
「ね、途中まで一緒に帰ろう」
「ええ、そうしましょうか」
イルミネーションで照らされているし、駅前は人は多いとはいえ、すでに暗くなっているのだ。一人で歩くよりも二人で帰ったほうが安全なのは言うまでもない。
イルミネーションが巻き付けられた街路樹は、葉こそ落ちてしまっているものの、この時期にしか見られない姿で人間を楽しませてくれる。
「イルミネーション、きれいだよねー」
「そうね。いま気づいたけど、今日ってクリスマス?」
「そうそう。やっぱさー、こういうのは好きな人と見たいよね!やっぱみのりちゃんも猪狩くんと見たい?」
「だ、だからなんですぐ猪狩くんの名前が出てくるの!?
他愛ない会話に、勉強で疲れた脳が緩む感じがしていたというのに、鶯谷さんが何の脈絡もなく妙なことを言い出すのでつい大きな声を出してしまった。鶯谷さんはうんうんわかってるよ、と満足げに頷く。こっちは全然わからない。…わからないことにしておく。
「それに私は、その、なんていうかもっと自然な光景の方がいいんじゃないかなって…」
「自然な光景?」
「例えば朝焼けとか、星空とか、木漏れ日とか……そういう方がいいと思うの」
人工的な装飾も嫌いじゃない。それは人間たちの創意工夫と科学の発展の賜物だから。でも、やっぱり人知の及ばない自然の造形には圧倒されるものがある。建物、法、ルール、システム。世の中は人の作ったものであふれ、人の作ったもので動かされている。そんな中で生きる私たちだから、きっと自然の雄大さに惹かれるのだろうと、そう思う。何かに縛られ、息苦しさを感じている人ほど。
「そっかぁ。私は断然夜景とかイルミネーションだなー。憧れるよー」
だから、そういう意味では鶯谷さんはすごく自由なのではないかな、と考える。夢物語に憧れる彼女はすごく女の子らしくて、時に魅力的だ。
「それもいいと思うわ。きっと、何を見るかじゃなくて誰と見るのかが重要なのだし」
「おお……すごい…名言聞いちゃった…」
「だから、こうして友人と見るイルミネーションはなんだか特別な気もするの」
「!!」

『メリークリスマス、鶯谷さん』

「でもそうだね、猪狩くんは夜景とかより自然な光景の方が好きそう」
「鶯谷さんっ!」

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【二ノ宮光輝】
「光輝ーーー!!!メリーーーーークリスマーーース!!!」
「うるせーよ!!何時だと思ってんだ桃子!」
「7時半~!」
寝起きにも関わらず素晴らしいツッコミをしてしまったことはおいといて、そう、7時半。冬休みも始まってる今日25日、朝の7時半に。何故か俺はサンタクロースに襲撃されていた。もとい、サンタクロースの恰好をした桃子にだ。
「ふぉっふぉっふぉ~光輝はいい子にしておったかのう~!」
「ああもう…何なんだよ…プレゼント配り間に合ってないじゃないすか、サンタさん…早朝ですよ…」
ひげまでつけてノリノリな桃子に頭が痛くなる。胃じゃなくて頭。
「桃子?光輝は起きてたのかい?」
「あ、瑞希~いたよー!」
「なんだ、瑞希もいっしょか…それなら多少は……」
桃子の抑制役になってくれるからよかった。とん、とん、と階段を上ってくる足音が聞こえる。うん、これは瑞希の足音だ。と、安心したのもつかの間。
「光輝!メリーークリスマース!」
鉄砲玉サンタよりは幾分か抑え目ではあるものの、割と勢いよく入ってきたのはサンタクロース姿の笹島瑞希。ひげ付きで。
「どうだい?似合っているかな!」
「なんでうれしそうなんだお前……」
今回はこういうパターンかよぉ……と両手で顔を覆う。いつだってそうだ。俺には味方がいない。本編でもそうだしこういう番外編でもそうじゃないか。胃が痛い。今度はちゃんと胃が痛くなってきた。
「はいはい、光輝も着替えて~」
「え?なんで…」
「サンタやるから!」
相変わらずの調子に、これはだめだ、と。テンション上がってるのもあって話にならないことを悟り、聞く相手を早々にシフトする。
「………。瑞希、通訳頼む…」
「いいよ」
敏腕通訳の話によると、どうやら俺たちが昔通っていた幼稚園でクリスマス会をやるらしいのだが、昨今の子供はどうにも鋭いらしく、去年園長がばれかけたので今年はどうしたものか迷っていたらしい。それを自分の家で聞いた桃子がサンタ役を引き受けたらしく、今に至る…と。
「状況は、把握した、けど。なんっで当日に来るんだ…」
「引き受けたのが昨日だから?」
「…もし、今日は予定があるようなら私と桃子の二人で行ってくるから気にしないでいいんだよ?」
説明している間に少しテンションが落ち着いたのか、サンタ姿の瑞希がおずおずと告げる。そういうことなら予定があることにしてしまおう、と口を開きかけた瞬間。
この二人に任せて大丈夫か、ばれるだろう、中年男性の園長でばれかけるなら100%ばれるだろう。その時この二人でリカバリーできるのか?瑞希がいるから大丈夫だと思うけど、でも…
もうこうなってしまったらだめだ。生来の性格なんだから仕方ない。気にしてるくらいなら、予定もないし、昔お世話になっていたのだから多少の手伝いくらいはするべきのはず。
「……わかった。予定もないしいいよ」
「さすが光輝はいい子じゃのう~。サンタまんじゅうをあげよう」
「普通の紅白饅頭なんだよなぁ!!」
差し出されたのは紅白饅頭だし、桃子は突っ込まれたことに不機嫌そうだし、瑞希はいつもの微笑みだし。全く、クリスマスまで幼馴染と一緒なのはどうなんだ。という疑問を抱えつつ、乗り掛かった舟なので仕方ない。

『こうなったらサンタでもトナカイでもやればいいんだろ…メリークリスマースっつってさ…』

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【猫井のあら】
12月24日 11時36分。
アズキくん、お母様とお出かけ。口元の動きから会話を察するに、今日のディナーの買い出しかな?中学生にもなると、そういうの恥ずかしくて付き合わない男子もいるらしいけどアズキくんはお手伝いしててえらいなあ。素敵!好き!

12月24日 12時15分。
お買い物する前にお昼を食べるみたい。アズキくんのお母様はのあらの将来のお義母さまだから、食べ物の好みはしっかり把握しなくっちゃ。アズキくんはトマトのパスタを食べてたよ♡かわいい!好き!

12月24日 13時21分。
お買い物開始。お夕飯の買い物だよね。あんなにたくさん材料を入れたのに、アズキくんは涼しい顔してカゴを持ってあげてる。力持ちでかっこいい!好き!

12月24日 13時48分。
お母様の足がお洋服屋さんへ。アズキくんの顔がちょっとだけ嫌そう。アズキにも買ってあげるわ、って言ってるみたい。それでも乗り気にはならない。でもでもやっぱり荷物は持ってあげるアズキくん。優しい!好き!

12月24日 19時03分。
お母様力作の夕飯。すっごくおいしそう。アズキくんのお母様はお料理上手…ってことは、アズキくんは間違いなく舌が肥えてるはず。のあらもお料理の練習しなくっちゃ。お父様はワインでご機嫌みたい。ご挨拶に伺う時はワインを持ってくのがよさそうだね。アズキくんは残さずご飯を食べてケーキも食べてたよ!健康的!好き!

12月24日 21時13分。
アズキくんが自分のお部屋で、クリスマスプレゼントに貰ったCDを聞いてるみたい。すかさずのあらも同じものを注文した。これで同じ曲について語れるね!それって恋人っぽい!やん!好き!

12月24日 22時58分。
アズキくんはもう寝ちゃうみたい。今日は重たい荷物持ってたくさん歩いたもんね。お疲れ様。また明日ねアズキくん。目覚ましの設定を外し忘れちゃううっかりさも、今日はしょうがないしそういうとこもギャップ感じちゃう!好き!

12月25日 7時55分。
あらら。設定を外し忘れてたせいで、少し早めの起床。枕元にちらっと視線をやってたけど、何を考えてるんだろう…ベッドから降りるときに足首が見えた!くるぶし!いつも見えないそんな箇所にドキドキ!好き!

12月25日 8時02分。
ちょっと寝ぼけまなこのアズキくんが、メリークリスマスって!お父様とお母様に!!あ~ん!!うらやましいよ~!!

『私にもメリークリスマス、のあらって言って~!!!!アズキくん、好き~!!』

※猫井さんが帰宅後からのアズキくんをどう観察していたかは、まだ死にたくないので控えさせていただきます。

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【馬場和海】
すやすやと眠る弟と妹を起こさないように、そっとプレゼントを枕元に置く。
絶対にサンタさんを捕まえる!なんて意気込んでたのはいいけれど、頑張れたのは少しだけのようで、いつもよりも1時間遅かったものの眠ってしまった。じっと見つめる先には油断しきった、安らかな寝顔。ぷにぷにのほっぺたはほんのり赤くて、くうくうと寝息を立てているその様子に、自分の弟妹ながらかわいいなぁと思う。
肩まで布団をかけなおしてあげてから、起こさないようにそっと居間に戻る。お母さんは年末で忙しいようで、ついさっき帰ってきたばかりだ。
「ごめんね和海、今年は全部任せちゃって」
「ううん、いいの。お母さんもいつも夜遅くまでお疲れ様」
「プレゼント、置けた?」
「うん。もうぐっすりだもん。今日は頑張ってたんだけどね、やっぱりお布団入ったらあったかくなって寝ちゃった」
それを聞くと、お母さんはそっか、と安心したような笑みを見せた。お母さんがクリスマスプレゼントを買うために最近少し無理して働いているのを、私は知っている。それもそうだろう。3人兄弟の上に母子家庭である以上、生活費だけでもギリギリなのに、おもちゃを買うような余裕はうちにはない。それでも、弟妹はまだ小さく、サンタクロースを信じている。ほかの子のお家にはサンタが来たのに自分のところには来なかったとなれば、落ち込んでしまう。
「でも本当に良かったの?」
「何が?」
「和海は欲しいものないって言ったじゃない」
「ああ…うん。本当になかったから」
二人にクリスマスプレゼントを用意するときに、お母さんは私にももちろん聞いてくれた。でも、状況が状況なのにワガママなんて言えない。それに、本当になにか欲しいものがあったわけじゃない。というより、私の分まで工面するためにもっと無理させてしまうくらいなら、少しでも休息の時間に当ててほしかった。だから、ない、と伝えていた。
「和海にはずいぶん早くサンタさんから卒業させちゃって本当に悪いと思ってるの。だから、私からになっちゃうけど、はい」
「え?」
お母さんが紙袋を取り出す。
え?え?お母さん、私の分まで用意しちゃったの?そんな余裕、ないはずなのに。忙しいから、何か見繕いに行く時間もないだろうに、いつ、
ちょっと震える手で中身を取り出すと。
「マフラー…?」
「そうよ。お店で買ったものじゃなくてごめんね」
「え!?これ、お母さんが作ったの…?」
「うん」
いつもよりもお仕事の時間を増やして、いつも疲れ切って帰ってくるのに、いつの間に作ったのか。ふわふわとした手触りが伝わってきて、泣きそうになる。
「お母さん、私…サンタさんからプレゼントもらった回数が、人より少ないかもしれないけど、でもいいの。だって、これがサンタさんの持ってきたものじゃなくてお母さんの手作りだって伝えてもらえるから。ちゃんとお母さんに、ありがとうって言えるから。ありがとう、大事にするね。大事に大事にするね…!」

『ありがとう、メリークリスマス、お母さん』

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【細川大】
ポン、とスマートフォンが鳴る。この音はメッセージアプリの通知だろうか。
スマートフォンを手に取り、すいすいと画面を操作して通知内容を確認する。
「ほほう!これはこれは……」
メッセージの送り主はオタク友達の六島先生。メッセージの内容は、25日にDVDの鑑賞会をしよう、というもの。
予定のない自分としては大歓迎な誘いではありますが…
確かその日は六島先生のご贔屓にしているアイドルのクリスマスライブが、とお聞きしたような。まさかそちらを忘れるとは思えないものの、万が一ということも…
念のため、そちらの予定は大丈夫なのかと聞いてみる。
≪自分は問題ないです!でも六島先生、ライブの方はよろしいので?≫
送信したところ、すぐに既読の字の横に、2と表示された。どうやら森谷先生もリアルタイムでご参加なさっている様子。
しばらく返事を待っていたところ、返ってきたのは六島先生の魂の叫びだった。
〈抽選に落ちたんだよ!!思い出させやがってー!当日はしっかり愚痴聞いてもらうからな!〉
「こ、これは…!フオオ、地雷を踏みぬいた模様…」
意図せずにとはいえ、やらかしてしまった。どう謝ったものかと悩んでいると、ポン、と新着メッセージの音。
〔俺も問題ないよ。六島ブチ切れすぎてて草生える〕
〈そりゃキレもするっての!ルイッターに張り付いてたけど譲渡が一向に見つからないし〉
〔だから言ったじゃん、これ箱小さくない?って〕
〈それなんだよ!それなんだよ!!〉
≪ふーむ、残念でしたなぁ…≫
〈チケットないと物販も入れないし、こうなったらカラオケで踊り狂うしかないって…〉
〔変な人じゃん〕
〈お前は今踊るタイプのアイドルファンを全員敵に回した。それに、ライブDVDだけでなくお前らの選んだのも持ってきてほしいんだよ〉
≪ほう!つまり、各々のおすすめDVDを布教する会ですな!?≫
〔へー、いいじゃん。めっちゃ泣けるの持ってくよ〕
〈んじゃあ場所と時間決めるかー〉
次々と流れていくメッセージを読みながら、時折返事を打ち込む。クリスマスに、同好の士とお互いのおススメをプレゼン、とは。
今までそんなことをしたこともなく。何よりも、そんなことを企画し共有し、同じように楽しむことのできる友人に恵まれたことが何よりの幸福であるのだと、ひしひし感じる。
DVDは一人でも鑑賞できるが、プレゼンも、感想や考察を交わすことも、友人がいなければ成立しない。十人十色、多様性が認められる現代社会で、そうして趣味嗜好の近いものに出会い、お互いの意見に耳を傾け、思考の海を深めることができることの、幸福。
日常に紛れて当たり前に思ってしまうような幸福に気づけた自分の、なんと幸運なことだろうか。
どの円盤を持っていくか、しっかり吟味せねばなりませんな!

『メリークリスマス、同好の士よ!』

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【御神瑠璃子】
12月25日。世間ではクリスマスで盛り上がりを見せているけれど、私の家ではクリスマスの雰囲気が一切ない。
その代わり、毎年この時期にやっていることがある。
「お母さん、お風呂場の掃除、終わったわ」
「ありがとう。冬場の大掛かりなお風呂掃除はさぞ冷えたのではなくって?」
「大丈夫よ。毎年のことだもの」
そう、大掃除。大掃除、とは言っても、年末に1日で家全体の大掃除を行わなくていいように、1週間ほど前からその日にやる場所を決めて、少しずつ進めていくのだ。
少しばかり大きい家に住んでいるので、そうでもしないと全部の箇所を掃除できない、という理由もある。お手伝いさんも何人か来ていて手伝ってもらってもいるが、基本的には自分たちで掃除をする。
「こっちも一段落したところよ。大福を買ってあるの。お茶を淹れるから、食べて休憩しましょうか」
「はい」
お母さんがお茶を淹れている間に、買ってきたのであろう大福を用意する。袋に鬼ヶ島和菓子店、と書いてあるのを見てつい笑みがこぼれる。そっか。お母さんも、鬼ヶ島さんのお家の和菓子、気に入ったのね。天真爛漫な笑みで、無垢に私に接してくれるクラスメイトを思い浮かべる。あの子は、とってもいい子だ。

コタツにあたりながら、お茶と大福をいただいて、お母さんと話をする。私は、こんなゆったりした時間が好きだ。クリスマスの過ごし方とは少し違うのだろうけど、その日あったことを話したり、話す前に当てられてしまったり。そんな時間が、私たちに必要な時間として存在している。
大福を一口食べる。ふんわりした甘さがして、優しい味だな、と思った。
「そうそう、この大福…瑠璃子のお友達のお家が営んでいるお店なのね」
「お友達……お友達、なのかしら。鬼ヶ島さんは、私が孤立しがちだから気にしてくれているだけだと思うし」
「あら、そう?ふぅん……」
お母さんが意味ありげににやにやと笑っている。こういう時は、大抵”あれ”だ。
「…なに?そうじゃないと思う、って言いたいの?」
「ええ。勘よ」
「…少なくとも、いいクラスメイトだとは思ってるわ」
「そう」
笑みこそ少し引っ込めたものの、声に楽しさがにじんだままだ。多分隠そうとしていないので、特にツッコミは入れない。
「でも私もいい子だと思うわ。買いに行ったときにね、ちょうどお店の手伝いをしてらしたのよ。その時に…」
お母さんの話をそこまで聞いて、何かが降ってくるようにピンとその先がわかる気がした。既視感にも似ているかもしれない。聞いたことのない話なのに、一度見たような。聞いたことのあるような。
「綺麗ですね、って言われたの?」
「…この話、もうしたかしら?」
その言葉を聞いて、思わず口元が緩んでしまう。さっきお母さんがそうしたように、言って見せる。
「ふふ。勘よ」

『御神家式メリークリスマス』

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【三川凛之助】
「なあ、凛。涼子さんは?」
家に来て1時間くらい。スマホでゲームをしていた透が何気なく聞いてきた質問は、姉貴のことについてだった。
「姉貴なら今日友達とクリスマスパーティするって言ってたし、終わるまで帰ってこねえと思うけど?」
「なっ」
朝、姉貴が母親に話してたのを思い出して告げると、勢いよく肩を掴まれる。
「その友達って男!?男か!?友達と書いて彼氏と読む奴じゃないのかそれは!」
「知らねぇよオレに聞くんじゃねぇ!」
すごい勢いとでかい声で問いただされ、同じくらい大きな声で返す。そもそもそこまで仲良し姉弟というわけでもないのだから、姉の恋愛事情なんか把握しているはずもない。さらに言うのなら、何かというと暴力に訴えてくる以上、相性がいいのはドМくらいのものではないのか。
「涼子さんに彼氏…あり得ない話では…」
「あり得ねえだろ誰が好きになるんだあのゴリラ女を…」
「凛、それはお前が弟だから言えることだ。もっと客観的に見てみろ、魅力に満ちてるだろーが」
客観的に……客観的に…見ても……顔も、特に目がきついし、服装にもかわいげがないし、言葉遣いも乱暴だし、客観的にみて男みたいな女としか言いようがないと思う。女の兄弟がいない奴ってのは怖ぇな。何もわかっていない。
「ま、自分より弱い男は嫌だっつってたし、ないだろ」
「それ……めちゃくちゃハードル高くないか…?あの人スポーティ通り越して武闘派なのに…」
「そこは理解してんだな」
そこも透特有の謎フィルターで歪められているかと思っていたが、どうやらそこはきちんと認識できているらしい。
「つーわけで待っててもしょうがないから帰れ」
しっ、しっ、と手で追い払うようなしぐさをするも、話を聞いていたのか台所にいる母親が割り込んできた。
「あらー、良いじゃない。透君ウチでご飯食べていきなよー。お姉ちゃんいないの忘れていつも通りの量で作っちゃったから余りそうなのー」
「いいんですかー?俺三川家のご飯旨いから好きです」
「んー!いいね、やっぱり食べて行きな!」
「あざーす!」
オレが口を挟む隙もなく、とんとん拍子に話が進んでいく。そこは褒め上手の透の腕の見せ所というか、もともと食わせるつもりだったようだがあっさり乗せられた母親が、台所で鼻歌を歌っている。
こうなればもう透が夕飯を食べていくことは確定だろう。一個だけ引っかかっていたことがあったので、それだけ確認しておくことにした。
「自分ちの飯、いいの」
「連絡すりゃ平気。うちがクリスマス飯になるのって25日だし」
「おー、そうかよ」
「そうだよ。部屋行こうぜ、この前読んでた漫画の続きが読みたい」
「あ?うちは漫画喫茶じゃないぞ金を払え」
あっという間にいつも通りの会話になってしまったので、魔がさしたとしか言いようがない、少しだけ言おうと思った言葉はしまっておいた。

『今更こいつ相手にメリークリスマスはいらねぇな』

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【宮下透】
「…何してんのお前」
「……凛か…」
寒空の下、駅前の時計を支える支柱に寄りかかって早くも30分。予想外の人物に出会った。
腐れ縁もいいところの幼馴染み、三川凛之助。分厚いコートにマフラーをしっかり巻いて、そのマフラーで口元を覆っている。
今日だけは、というか今のタイミングでは会いたくなかった相手だったが、もう寂しくてどうにかなりそうだったので凛でいいかと遠い目をしたまま今の状況を説明する。
「ふっ……聞いて驚け、今日一緒に遊ぶ予定だった子におそらくドタキャンされた俺だぜ…笑えよ…」
メッセージアプリは既読すら付きやしない。放課後デートは応じてくれてたので行けると思ってましたがダメなようです。女の子は気まぐれだから仕方ないな、うん。さあ凛、笑え。笑い飛ばしてくれいっそ。
「え…。ダッ………ッサ……」
「半笑いでそんな風に言われるのは普通に傷つくからせめてもっとちゃんと笑え」
わずかに頬が動いたのと、目だけで確認したけどそれ半笑いの顔だろ。ダサいの一言そんなに溜める奴があるかよ。
「ていうか猫井はいいのか」
「…ん?」
「本命放っておいて何してるのか聞いてんだよ。またクリスマスデートなんか恥ずかしくて誘えな~いってか」
凛がこの話題の時によく使う気色悪い声で茶化してくる。でももちろん俺だってそこまで何も考えてないわけじゃない。
「馬鹿にするなよ凛、連絡先を知らないだけだ!!もちろん聞くだけの勇気も出なかった!」
そう、したくてもできなかっただけだ。
「かわいそうにな…」
「うるせぇ…」
本格的に憐憫の色がにじんできたので、それくらいしか言い返せない。冷え込んだ空気が余計に寒い。
「もう時効だと思うぜ、あっちも忘れてんだろ」
凛は昔やらかしたとあることについて言ってるわけだけど……その件については、まだ本人にきちんと謝れてない。それに。
「俺が忘れてない。だから俺は加害者のままなの。時効とかない」
「そ。どっちでもいいけど」
「目標はな、とりあえず普通に会話ができるようにする」
「(本命には弱くてびびってるだけなんだよな…)」
何が言いたいかわかるような凛の視線はさておき、むしろ凛の方こそこんな寒い日に特に理由もなく出歩くやつではない。にもかかわらず重装備でこんなところを通りがかることが気になった。
「凛は何してんだよ」
「クリスマスのケーキ取りに行けって言われて取りに行った」
「あー、なるほど」
どおりででかいものを持ってると思った。ケーキならなおさら適当に持つわけにはいかないし、納得。それはいいとして、もう寒さが限界だ。どこかへ避難しなければ。そういう意味ではここに凛が通りがかったのはラッキーだったかもしれない。
「じゃあ凛の家行くか、寒いし」
「は?何、来んの」
「行く。俺のこの心の隙間は涼子さんに埋めてもらう」
「今いないぜ」
「待つ」
「あっそ……じゃあこれ持って」
凛が手に持っていたそれなりに大きなお使い物を差しだす。いやいや、それは自分で持てよ。子供じゃないんだから。
「なんでだよ。自分ちのケーキなんだから自分で持てって」
「来るんだろ、いきなり」
…それを言われるとぐうの音も出ない。アポなしで行くのは本当だからだ。
「……お持ちします、凛王子」
「それでいい」
晴れて両手をポケットに入れることが叶った上、歩きにくい状態から解放された凛はご機嫌。仕方なく俺が最新の注意を払って三川家のケーキを運ぶことになったわけだ。

『こいつには死んでもメリークリスマスとは言わない』

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【室館のぞみ】
「クリスマスだよ……」
誰に言ったわけでもなくつぶやく。部屋に一人なのに。でも仕方ない。ごめんねオタクって自室では独り言が激しくなるタイプもいるの。感情が高ぶると口からこぼれるけどそれを隠す必要がないから遠慮なくこぼれるの!このごめんも誰宛かわからないけど!
さてクリスマス。クリスマスと言えば。
ルイッターとフクシブにホワイトクリスマス(意味深)ネタも、プレゼント(意味深)ネタもサンタクロース(意味深)ネタも山ほど出てくる天国みたいな日だ。いうなればそう、ごちそう。神絵師と神文書きが作る期間限定季節ネタのごちそうで次から次へと私の欲望を満たしてくれる日。やったぜひゃっほい「いいぜ!」が止まらない!
ルイッターで検索しては感性を突き刺してくる作品たちに片っ端から「いいぜ!」を飛ばす。
こうしていろんなものを見ていると、私も何か描きたいな、と思うものの。
正直ここ最近一番熱いジャンルがナマモノ(しかもクラスメイトとか先生)だから、こう、複数の意味で簡単に出力してはいけないものなので!この!たぎる!思いを!どうしたらいいのか!あと絶対透凛ちゃんが今日は一緒にいるしなんなら一線を越えるかもしれないと思っていますどの段階の線かはわからないけどっていうかどこの線でもおいしいね!!?
一緒にいるといいなぁ、いるかなぁ。いいんだよ実際は全然違くても。私の脳内では一緒に過ごしているよ。透凛ちゃんもシズスバくんも犬伊ちゃんも一緒に過ごしているし、東間先生はちーちゃん先生と朝日奈先生に取り合いされているよ。最近は木場君と車屋親分もありだよねって思ってるし、犬飼君と寺島君もありだ。六島君も眼鏡外したらもしかしたらイケメンとかないかなって。細川君だって他にはいないタイプのキャラだし、もう何でもありだ。すべての男子にあらゆるポテンシャルを見出していけ、のぞみ。
これだけワーワー言ってますけどね、いいんですよ、実際には彼女と過ごしてようが。でも私の脳内ではいろんな組み合わせがハッピークリスマス過ごしちゃってるのよ!そう、これが二次創作だ。本人たちにばれないようにひっそり楽しませてもらいます。
世の中はクリスマスでいろんな盛り上がりを見せていることでしょうとも。いいじゃないか。
でも私は盛り上がらない。盛り上がりを見てるだけでいい。カーテンか天井になるので、私の脳内でイチャイチャ、もしくはイチャイチャ拒否をしている男性諸君!そう!君たちだ!

『お前たちがメリークリスマス(意味深)するんだよ!』

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【森谷貴志】
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
「イヤアアアアアアアアア!!!!」
「あっはっはっはっは!!二人とも、お、面白すぎ…!あは、あはははは、げほっ」
「咽るくらい笑ってんじゃねえよ森谷!!」
「ももも森谷先生は鬼畜すぎなところがございますなあ…!」
予想以上の二人の反応に笑いが止まらない。ので、一度DVDを止める。
「二人のせいで内容全然入ってこないや。おれは何度か見たやつだしいいけど、ほら、ちゃんと見ないともったいないよ」
「黙って熱中できないようなの選んだのは誰だよ…泣けるの持ってくるってお前、どっち方向に泣かせたいんだ…」
「自分は最後までSAN値を保てるか、些か心配になってきましたぞ…」
まだまだ話は序盤なのにぐったりする細川と六島を見てまた笑いがこみあげてくる。口元を隠してうつむくけど、肩が震えてしまってるので笑っているのはばれてるだろう。六島がまた睨んでくるけど、気にしない。
「いや、でもまあなんかわかる……森谷は好きそうだよな、ホラー系…」
「それにしても、クリスマスに男三人で鑑賞するものとしてわざわざ選択するものでもないのではと、自分は思ったりするのですが…!」
「えー?だって今日の趣旨的に、多分六島はライブDVD持ってくるだろうし、細川も”すまない”の劇場版か、その辺の持ってくるかなと思って。被らないほうがいいかと思ってさ。」
「ほぼ完ぺきな推理…流石ですな、森谷先生は」
「というより、クリスマスに非リアの男三人寄り集まって少女漫画原作のげろ甘実写映画見るほうが悲惨だろ?目も当てられないよ」
「「あー……」」
「それにおれ、映画はジャンルで選ばないよ。これも内容良いから、まあ騙されたと思ってちゃんと見てみ。叫ぶのは全然オッケー」
まだ青ざめている二人に気分が乗ってきて、ウインクを一つ。少しだけ巻き戻してから、再生ボタンを押した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……待ってくれ…」
「こ、こ、これはああ……」
「な?よかっただろ」
涙と鼻水でずるずるの二人に問いかける。というかほんとすごいな。もうほぼ妖怪みたいな顔してる。二人はかわるがわる箱ティッシュからティッシュを引き抜き、涙を拭くやら鼻をかむやらで忙しそうなのに、それよりも感想を言いたい気持ちが前に出ているらしい。
「これは布教すべき…作品ですな…ホラーというジャンルゆえにそれだけで視聴に抵抗感が生まれる層がある、むしろ自分こそそうであったといっても過言ではないのですが、これは…これは…二周目を見ることでガラッと印象の変わる……名作…」
「エリザベートが切なすぎてやばい……それしか言えねえ…なんで…なんでだエリザベート…ぐうう…」
「洋画にしてはなかなか珍しいタイプの映画なんだよなー。あれでアクションも豊富なのがすごいし」
「ああ!それは思った。あのアクションは引き込まれるなー」
「そうですなぁ。にもかかわらず、恐怖感を失わせない絶妙な構成!最初は罰ゲームのように感じていたことは否めませんが、今は充足感が満ちていますぞ…!」
「音楽もすごい良いんだよね。おれ自身、映像やストーリーと合わせたあの音楽にはかなり刺激受けたし、初めて見たときは衝撃だったよ」
クリスマス。世の中が浮足立って、やれクリスマスデートに最適なスポットだやれカップル限定割引だと騒いでいる。
それもいいと思うし、家族とゆっくり過ごすのもいいだろう。でも、カラオケに引きこもって、DVDを見ながらサイリウムを振るだとか絶叫するだとか考察や感想を交し合うだとか。
そんなことが、おれは今一番楽しいから。非リア三人のオタ充クリスマス万歳ってことで、ここはひとつ。

『メリークリスマス。おれの大事な友人たち。』

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【六島灯】
「え゛」
携帯に届いたメールに、絶句する。表示された文字は≪厳正なる抽選の結果、チケットをご用意することができませんでした≫。
「う、嘘だろ…!うそだろおおおお」
今一番推しているアイドルの、クリスマスライブのチケット抽選に漏れた。
何度読み返しても結果は同じ、サイトをのぞいてみてもチケット完売の文字。おまけにメンバーの公式ブログでも完売御礼の記事が先ほどアップされていた。
確かに最近ちょっとだけメディアに進出してきて、知名度が上がってきてはいたものの。あの「類友が絶対に見つかる」のキャッチコピーでおなじみのSNS、ルイッターでも名前を見るようになっていたけど、まさかそんな。
ごめんだけど正直チケットが完売するほどとは思っていなかった。いや違う。嬉しい。嬉しいのだけど、そうじゃない。
「箱が小さすぎんだよなあああああああ」
そう、箱が小さかったんだ。収容できる人数が少なすぎる。俺の(今の)推し、ミーアちゃんの力をもってすれば当然の人気、もっと箱を大きくするべきだった。つまりこれは運営の落ち度。すぐにFCをつくってFC先行の0次抽選を作るべきだ、絶対そうだ。
「っていうかマジで!?今回チケットがないと物販にも入れねえんですけど!」
最悪だ。最悪だ最悪だ。だってクリスマスだぞ。ぜっっっっったいサンタ的な衣装があるだろ!?それを生で見られない!?死んでも死にきれない!!
「ルイッターで譲渡を……うわ定価での求ばっかり…倍率どんだけだったんだ…」
ちなみにチケット転売サイトとオークションは見ない。絶対に数万以上値を釣り上げた転売が出ていて殺意に溢れるから。それとは別にあとでその出品全部通報するけどな!真のファンなら転売ヤーなんぞにこの金は渡さんこれはすべてミーアちゃんの笑顔と衣装のために使ってもらう。

「……は~…だめだ……」
すでに1時間ルイッターに張り付いているが、出てくるのはチケットを求めるルイートばかり。仲間内も全員落選、物販の代行も頼めない。
「こうなったら……当日はあの過ごし方するしかないか…メンバーは森谷と細川だよなやっぱ」
秘技、カラオケでライブDVD使って疑似ライブ。
至極残念ではあるものの、それでも転売チケットには手を出さない。そもそも出せない値段になっていると思われるが、出せても出さない。俺はタバコと麻薬と転売だけはやらないと心に固く誓っている。
……誓っているけど。
「っだああああああああああ悔しいいいいいいいいい」

『当日は二人にメリー愚痴スマスだよチクショウ!!』

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【中村めぐ】
『本日はクリスマスです!皆さんいかがお過ごしでしょうか~』
「……」
テレビから流れてきた女性アナウンサーの声に、携帯の画面から目を離して顔を上げる。見ていた、というよりは無音というのも何なので付けて流しっぱなしにしていたテレビの音声だ。
「…クリスマスねー」
ぽつりとつぶやいた声に返事をする人はいない。それもそのはず、父はまだ帰ってきていないのだから。時計に目をやるとちょうど20時頃を指し示していた。今日も遅くなると言っていたし、多分まだまだ帰っては来ないだろう。うちが父子家庭になってからしばらく経つし、当然一人で過ごすクリスマスというのも慣れたので特に何か思うことがあるわけではなかった。強いて言うなら、年末ってのは何かと忙しくなって大人は大変だなぁとか、お正月用の買い出しをしなきゃなぁとかその程度だ。そう、あたしの目は既にお正月に向けられている。
テレビではクイズに正解したらしいアイドルが、今年注目されていたケーキを食べてはしゃいでいる。丸太型の奴だとか、三種のベリーやら、マスカルポーネやら。はぁ最近のケーキってのは随分オシャレなんですね、とぼんやり思いながら、お正月に食べたいものを考える。足はコタツであったかいし、なんだか眠くなってきた。
「んー……かまぼこと伊達巻は食べたいな。黒豆はいいや…あと数の子とー…栗きんとん…」
父さんはまだまだ帰ってこれないだろうし少しだけこのまま寝ちゃおうかな、とコタツの天板に頬をつけるようにして頭を預けると、むに、と変形した頬からひんやりと冷たさが伝わる。
瞼がゆっくり重くなってきて、目を瞑った。真っ暗な視界、届くのはテレビの音。…と、そのテレビの音に紛れてガチャガチャ、と鍵が開く音がした。
「…え?」
鍵が開く音。それはつまり、多分、父が帰ってきたということ。でもだって今日も遅くなるって言ってたのに。時間はまだ20時15分頃。普段の父の帰宅時間を考えればむしろ早いくらいだ。
「ただいまー」
「…おかえりなさい。今日遅くなるって言ってなかった?」
姿を見せた父にそう問えば、
「ん?フッフッフ」
返ってきたのは中年男性が見せるものではないような子供みたいなニヤニヤ顔。な、なんだ。なんなんだ。
「今日はサボって定時帰りだ!今日くらいはいいやって思ったんだよ、父さん。そら、ケーキ買ってきたぞ!」
「……は」
「めぐ、メリークリスマス!」
コタツに置かれた、真っ白で大きな四角い箱。よく見るような、何の変哲もない「ケーキの入っている箱」だ。
「……」
「あれ!?リアクション薄いな!?ほら、見てみろこれ、サンタも乗ってるんだぞ」
お父さんが箱を開けて、ケーキを指さした。確かに、丸いイチゴのショートケーキの上にサンタクロースを模した砂糖菓子が乗っていて、向かい側にはトナカイとソリの砂糖菓子も乗っている。
いかにも「クリスマス」用のホールケーキ。
「お父さんさぁ……」
「え、なんだ?もしかしてチョコケーキとかの方が良かったか?」
あたしの薄いリアクションに不安になったのか、慌て始めるその人を見つめる。別にクリスマスに家族全員でチキンやら偽物のシャンパンを口にしたいだとか、それができなくて寂しいだなんて今更強く思うわけでもないけど。
年末のこの忙しいだろう時期に、朝は満員電車にもまれて会社へ行き、頑張って仕事を片付けて、あたしが喜ぶだろうとこんなにファンシーなケーキを買って早く帰ってきてくれたんだ。

嬉しくないはずが、ない。

「ちーがうって。ホールケーキなんか買ってきちゃって、二人で食べきるのにどれだけかかると思ってるのさ」
「いっぱい食べていいぞ、めぐ。なんならそのままフォークでつついてもいい!」
「いや普通に切って食べるけど」
心地よいコタツから脱出するのにはそれなりの意思の強さが必要だけど、よっこいしょと立ち上がる。
「着替えてきなよ。ご飯食べるでしょ」
ケーキを持ち上げ、台所に向かう。外はだいぶ冷えるのだろう、台所もひんやりとしていた。先ほど作った夕飯を温めながら、ケーキを切る。こんなもんかな、と適当な大きさにカットしたそれをお皿に乗せて、フォークを添えてコタツへ。お父さんの夕飯も盛り付けて運んで、急いでコタツに戻れば、ちょうどお父さんも着替えて戻ってきたところだった。
「「いただきまーす」」
お父さんは夕飯、あたしはケーキ。揃って一口食べた。ケーキなんか久々に食べる。あまくて、ふわふわしてて、外は寒いけど足元はコタツであったかいし、お父さんはいるし、なんだろうか。なんだかいい感じだ。
「うまいか?めぐ」
「ん。おいしーよ、お父さん」
そう答えれば満足気にそうか、と箸を進めるお父さんに、照れくさくて口に出しては言えない言葉を心の中で言っておく。

『ありがとう、スーツ姿のサンタさん。
メリークリスマス。』

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